冷凍怪獣バルゴン
先日のネタとの怪獣つながりで思い出したコラムがある。
唐沢なをき「怪獣王」は、1999年4月に刊行された、永野のりこ、岩佐陽一、開田裕治のそれぞれと唐沢との怪獣を肴に大いに盛り上がる対談三本立てをメインに、唐沢の怪獣エッセイ漫画や、田村信「おれカネゴン」の再録などをまとめた、全編怪獣づくしの本。
この本の中に、デーモン小暮、とり・みき、大槻ケンヂ、あさりよしとおらが寄稿している「おれの一匹」というミニコラムが掲載されている。その中の一編、大口孝之が取り上げている「おれの一匹」は、映画「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」に登場する「冷凍怪獣バルゴン」である。
一昨年、母が亡くなったんですが、葬式も淡々と進み、「ああ、俺はまったく涙を流さないまま、お別れしちゃうのかな」とか考えながら、喪主を務めておりました。そんな時、小さいころに母親にムリヤリ買わせた、日東のプラモ“冷凍怪獣バルゴン”のことが思い出されて、ヴワ〜ッと涙があふれて来たんですね。そのころ我が家はとても貧乏で、両親が共働きということもあって、気を使った母が平日の夜に突然映画館につれていってくれたのです。でも入場が遅れたことで、「ガメラ対バルゴン」が半分観られなかったんですね。私はそのことで母を責め、母は大泣きしてしまいました。バルゴンのプラモを買わせたのは、その時です。
そのプラモデルというのはこれか。
映画は、怪獣物ながら、子供向けとは思えぬ筋立てで進む。
傷痍軍人が戦時中に南方の島で目にした巨大なオパールを我が物にせんと、軍隊時代の部下や自分の弟(本郷功次郎)からなる捜索隊を島へと送り込む。一人の隊員の裏切りにより、彼に独り占めされたオパールは神戸港に秘密裏に持ち込まれるのだが、帰国の船中で水虫に悩む彼に船医が勧めた治療器の赤外線が偶然照射されたことにより、オパールならぬバルゴンのタマゴは孵化してしまう。バルゴンによって神戸、大阪は空襲さながらに破壊され、現れたガメラもバルゴンの冷凍光線で氷づけにされてしまう……。
映画の前半は、裏切り者を中心に、オパールに取り憑かれた人々の薄汚さが延々と描かれ、バルゴンもガメラもなかなか出てこないので、当時7歳の子供だった大口孝之にとっては、観ていたとしても面白くなかったかもしれない。
それどころか、母親の葬式で涙を流すよすがとなったプラモデルを手に入れられたのだから、観られなくてよかったのだ。