氷高小夜の村上春樹に関する発言
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「文化系トークラジオLife」を読了。鈴木謙介、仲俣暁生、佐々木敦、柳瀬博一、斎藤哲也、津田大介、森山裕之ら(+ときどきゲスト)がテーマに沿ってトークを展開するラジオ番組の内容を本にまとめたもの。面白い。是非ラジオも聞いてみようと思った。
以下、どうでもいい話。
「憧れの男性」というテーマの回でのこと。リスナーからのメールで、矢沢永吉、木村拓哉、「はいからさんが通る」の伊集院少尉、インディ・ジョーンズ、中日の落合監督などなど、実在、非実在、とりまぜて次々と憧れの男性が紹介されていくなか、「村上春樹初期三部作の『ぼく』」について、以下のようなやりとりが交わされる。
MAIL:あこがれの男性は村上春樹初期三部作の「ぼく」です。 男から見た春樹と女から見た春樹は違うと思いますがどうなんでしょう。 鈴木:女子から見るとどうですか、村上春樹の「ぼく」。 大西:私は苦手かなあ。 高野:いつ出会うかにもよりますよね。学生時代なのか、社会人になってからなのか。 もっと強いものが必要な時期なのか、その深みを知りたい時なのか…。 鈴木:印象に残ってるのは、『AV女優』って本の中で、氷高小夜が言ってたことで、 村上龍の描くセックスは確かに「セックス」だけど、村上春樹の描くそれは「性交」だと。 柳瀬:そうそう。彼女がストレートに、龍が好きで春樹はイヤだって話を書いてたんですよ。 僕も小説としては春樹さんのほうが好きですけど、そのくだりを読んだ時に、 なるほどすごく分かるなあと思いましたね。 鈴木:僕、氷高小夜の大ファンだったんです。たいへんお世話になりました。 柳瀬:『AV女優』のインタビューは秀逸でしたね。 鈴木:彼女のインテリジェンスをきちんと引き出してますよね。
あれ、こんなこと、書いてあったっけ?、と本棚から「AV女優」を取り出して、久々に読み返してみた。
該当箇所を以下に引用する。氷高小夜が、偏頭痛がひどくなって勤めていたコンピュータ会社を辞めた後どうしたか、という話。
― これからの自分の人生とか考えなかったの? 「うん。ただ、頭痛いなあって(笑)。頭が痛いのが治ってからは、 しばらく部屋に閉じ籠もって本を読んでました。 小学校の時から貯めてたお金が百五十万円ぐらいあったんで、なんとか余裕はあったんです。 村上龍とか山田詠美とかいろいろ読んだな」 ― 村上春樹は? 「大っ嫌い! あの人の性表現ってなんか薄汚い気がするの。 だって妙にセックスをきれいに書こうとするでしょ。 それって、あの人自身がセックスのことを汚いと思ってるからきれいに書こうとしてると思うのね。 それがわかるから嫌い。セックスって汚いもんじゃないよね」
これは、柳瀬博一の言う「ストレートに、龍が好きで春樹はイヤだって話」ではあるが、鈴木謙介の言う「村上龍の描くセックスは確かに『セックス』だけど、村上春樹の描くそれは『性交』だ」という発言は、ここにはない。
上記引用は単行本からのものであるため、文庫本では鈴木謙介が言うような発言が記載されている可能性もなくはないが、多分ないだろう。
とすると、これは鈴木謙介の記憶違いか?
この「龍は『セックス』、春樹は『性交』」との説は、いわゆる、言い得て妙、というヤツで、きわめて印象深いものである。鈴木謙介が誰か他の人の発言を取り違えているのか、それとも彼の無意識の創作なのか、非常に気になる。
ちなみに、「AV女優」を紹介する際に皆が引用する感動的な文章が、この氷高小夜へのインタビューの回に登場する。先例にならい、私も引用しておく。
完全に酔っぱらった目で鴨ステーキを美味しそうに頬ばる氷高小夜を見つめながら、 私は実は自分は私立探偵になりたかったのだということを思い出した。 この同性愛者が蠢く町で探偵事務所を開き、そこにかつての松田優作のテレビドラマ 「探偵物語」のように氷高小夜が謎の美少女として出入りしてくれれば、 それだけで私の人生は完結するのになあ。
永沢光雄が死んで、もう何年になるのか。
氷高小夜は今、何をしているのだろうか。