芸術新潮とArT RANDOM CLASSICSと文庫本福袋の小村雪岱

最終更新時間:2010年03月01日 20時19分33秒

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 芸術新潮2010年2月号の特集は「小村雪岱を知っていますか?」。
 以下に私が知っていることを書きます。
 
 2004年1月、物見遊山で出かけた六本木ヒルズ森美術館の開館記念展で実物を見て衝撃を受け、すっかり伊藤若冲のファンになってしまいました。
 その後、(今は亡き)横浜ランドマークタワーの有隣堂で偶然若冲の画集を見つけ、値段の割には大判で印刷も紙質もよかったので即買い。

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 ところでこの画集、最初はエーアンドピーコーディネータージャパンから出ていた「ArT RANDOM CLASSICS」という叢書の中の1冊なのですが、まず消費税の内税表示義務化により定価訂正のシールが裏表紙に貼られ、次にこの会社が社名変更してデザインエクスチェンジになり、その社名変更のシールが貼られ、その後、不景気でデザインエクスチェンジが出版部門をまるごとBNNに売却、またまた社名変更のシールが貼られる、という数奇な運命を経て、裏表紙がシールだらけになっていました。
 若冲のものがなかなかいい画集だったので、叢書の他の本も見てみたくなるのが人情というものですが、ランドマークタワーの有隣堂にはこれ1冊しかありませんでした。Amazonで、とも思ったのですが、画集を不見転で買うのもなあ、と思い直し、そのままになっていました。
 しばらくして、たまたま立ち寄った(今は亡き)銀座の旭屋書店でまたまた偶然その叢書の他の本を見つけました。キャンバス一面に、ペイズリー柄というか、草間彌生的というか、変な模様が描かれた狂人の作品とか、18世紀の精密な解剖図とか、19世紀の悪魔主義者の作品とか、何とも言えないセレクトの叢書ということがわかってうれしくなり、棚に並んでいた6冊全部買うことにしました。
 その中の1冊にはさみこまれていたパンフレット(若冲のには入ってなかった)を見ると、そろってないのはあと1冊「小村雪岱」という画家のものであることが判明。コレクター魂に火がついた私が客注も辞さずという意気込みでレジのおばちゃんにせまると、絶版なので注文は受けられないとのこと。それどころか、私がレジに持っていった6冊の本を指差して「これみんな絶版なんですよ」と言い、若冲の画集同様にベタベタ貼られた、しかし若冲のものとは違って、一番上に見えてるのはデザインエクスチェンジのもので、BNNのヤツは貼られていない、そのたくさんのシールの意味を教えてくれた後、「BNNさんは若冲しか復刊しないそうなんです」と言うではありませんか!
 なんだよそれ、という感じで急に気が抜けてしまいました。どんな画家かも知らない、見たこともない画集なので、もしかしたらハズレなのかもしれないのに(というか過去の経験からしてその確率の方が高いのに)、それが手に入らないというだけで、けっこうガックリきてしまったのです。
 しかも、前述のパンフレットをよく読むと、その小村雪岱は明治期の挿絵画家で美人画を得意としたとのこと。なんだか叢書のセレクトからも浮いた感じだし、パンフレットのちっちゃいモノクロの絵を見てもピンとくるものがなく、まあ、あと1冊買えば叢書コンプリートだけど、なんかハズレっぽい感じだし、買えなくてもいいか、そもそもなよなよっとした美人画は好みじゃないしな、と自分に言い聞かせました。

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 そんな中途半端な感じのままでむかえた2004年の年末、帰省の移動中、飛行機の中で読んでいた坪内祐三の書評本「文庫本福袋」で、次のような記述にぶち当たりました。吉行淳之介の対談集「やわらかい話」の書評の中、淀川長治との対談「こわいでしたねサヨナラ篇」に触れた部分、スピルバーグの「激突」やワイラーの「コレクター」などについて語っているうちに、淀川が吉行にむかって突然、

<でもあなた、小村雪岱の絵そのままの先生やね。桔梗かるかや女郎花、みたいな感じのお方、華奢な、きれいなお方やねえ(笑)>

と口にした後、アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」がいかにホモセクシャルな愛を描いた映画であるのか、力を込めて解説していく様が記されているそうで。さらに、和田誠と丸谷才一による「あとがき的対談」での、吉行と淀川の対談に同席していた和田によると、

<対談の起こしには入っていませんが、淀川さんはいきなり吉行さんに『あなたはきれいな先生やね』って言うところから入る。それで『小村雪岱の絵のようやね』って言うんです>

 当時、淀川は自分がホモセクシャルであることを(少なくとも公式には)秘密にしており、この対談が初めて活字になった実質的カミングアウトにあたるのではないか、ということで、

<これも対談の起こしには入ってないけど、帰り際に吉行さんの顔を見て「あんた、ハメたね」って言ったんですよ>

 これを読んで「吉行淳之介っぽい美女ってどんな感じなんだ?!」と、俄然小村雪岱に興味がわいてきた私。年が明け、帰省先から上京して早々、インターネットでごそごそ調べた結果、紀伊國屋書店の渋谷店に在庫があることがわかり(紀伊國屋書店は店頭在庫も検索できる!)、早速に購入。

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 予想通り、私の好みではない、きれいな美人画(竹久夢二風というか、鏑木清方風というか)なのですが、ホモから見るとこれが吉行淳之介に見えるか、なるほどねえ、といった感慨が得られるところから、じっくり鑑賞することもでき、ハズレ感はまったくありませんでした。叢書コンプリート!の達成感もあったし。
 
 芸術新潮によると、埼玉県立近代美術館が小村雪岱の収集で有名とのこと。
 画集ではピンとこなくても、実物を見ればまた印象も違うかもしれません。
 機会があれば見にいこうかな、と思いました。