とあるB級AV女優の履歴書

 「13日間で『名文』を書けるようになる方法」は、高橋源一郎が明治学院大学で行った「言語表現法」の講義録をまとめたもの。高橋の行う、学生を突き放した、しかし素晴らしい講義の内容も驚きだが、なにより学生の聡明さにびっくり。彼らがレポートとして提出している文章はどれも、自分が学生だった頃には到底書けそうにない完成度のものばかり。ふざけた調子のものであっても、それがまた独特のユーモアのセンスを感じさせるものとなっていたりする。
 それはそれとして、以下はどうでもいい話。
 4回目の講義で「自己紹介」の一例として引用されている、とあるB級AV女優の「履歴書」を以下に孫引きする。なお、自己PRの欄にある「特意」は誤記だが、前掲書でもそのまま引用されている。

櫻井安奈 22歳
生年月日 S49年1月23日生まれ
出身地 神奈川
職業(学校名) F・ヘルス
両親の職業 父 サラリーマン
      母 パート
将来の夢 早く結婚したい
趣味・特技 ドライブ、ファミコン
好きなタレント 興味なし
好きな男性のタイプ やさしい人
嫌いな男性のタイプ ふけつな人・デブ
好きな言葉 自愛
尊敬する人 母
愛読誌 音楽誌
1ヶ月の収入(小遣い) 20万円
よく遊びに行くところ ライブハウス
好きなブランド 高いのでブランドきらい
最近の高い買い物 車
血液型 O型
身長 153cm
体重 41kg
彼氏の有無 有
男性経験 200人
セックスフレンドの数 3人
前のお仕事 F・ヘルス
売春経験(人数と金額) 100人 3万
AVに出演しようと思った動機 庄司みゆきさんのFANでした。
AVで何をしたいか?(具体的に) 庄司みゆきさんみたいに有名になりたい。
B/カップ 80cm B
W 58cm
H 83cm
自己PR ヘルスに4年つとめてるのでフェラチオは特意です
撮影内容 本番   OK
     フェラ  OK
     アナル  NG
     オモチャ OK
     レズ   OK
     3P    OK
     オナニー OK
     放尿   NG
     浣腸   NG
     顔面発射 OK
     口内発射 OK
     SM    ソフトOK

 この「履歴書」に続いて、これを読んだだけで女の子には会ってもいないAV監督が、この子について想像をめぐらしながら、実際に面接した担当者とふたりで行っている「対談」も引用されている。

───男性経験は二百人。初体験はヤクザ。無理やりヤラれた。でも、あとで二万円もらって、それから人生に対して開き直った、と言ってました。
山下 なるほどね。そこにいい理由を見つけたんでしょうね。
───そんな冷たい言い方(笑)。
山下 いや、そうですよ。決まってますよ。そんなの後付け後付け。
───あとはバクチク、黒夢のファン。インディーズのバンドを資金も体も含めて応援したがる人みたいです。そのためにファッションヘルスで働いてるそうです。
山下 バクチク、黒夢。なんで人気があるんですかね。でも、何かを思い切り追いかけてる人って、追っかけてる理由を、はっきり口にできないとこがありますよね。なんで好きなの? って聞いても、「昔から好きだった」とかしか答えられない。分かんないから追っかけちゃうのかな。
───あと、AVに出演した動機に書いてある「庄司みゆき」って誰ですか?
山下 AVギャルなんですけど、七年前くらいにいたんですよ。当時はわりと有名。で、ビジュアル系バンドのオーラっていたじゃないですか? そのオーラのドラムの人と結婚したんですよ。
───なるほど。それで話が通じました。好きなタレント「興味なし」って回答に、バンドと共に生きる力強さを感じますね。
山下 こういう子って、バンドを追っかけるじゃないですか。それで、何が目的なんですかね。セックスが目的っていうわけじゃないんでしょう。
───目的は「バンドマンとヤリたい」じゃないですよ。「バンドが売れて欲しい」「頑張って欲しい」っていう、単純にそこじゃないですか。でも、売れたらダメなんですよ、こういう子は。
山下 「あの人たちは変わった」とか。
───そうそう。それでまた別の売れないバンドマンに……。
山下 ああ。ぐるぐる回って行く。
───しかし、つらい人生ですよね。僕もそういう子、何人か知ってますけど。「いろいろ買ってやったりして、何になるんだろう」って、端から見てると思います。でも、助言とかするとヒドイ目にあいますよ。逆ギレされて。「あんたには分かんないのよー」とか言われて。放っておいてあげないと大変なことになります。
山下 まあ、顔が生き生きしてますよね。好きなことしてる、みたいな。

 高橋は、この「履歴書」と「対談」の引用元を、「あるアダルト・ヴィデオの映画監督が作った」、「81人の、『AVギャル』」を、「それも、一流ではなく、B級と呼ばれる女の子ばかりを集めた」本、としか述べておらず、具体的な書名は記されていない。しかし、私にはこの本が、バクシーシ山下がまとめた「私も女優にしてください」であることがすぐにわかった。

私も女優にしてください (¥800本 14)
太田出版
バクシーシ山下

 本棚からこの本を抜き出し、「履歴書」を読んでいて気になった、櫻井安奈の顔を確認してみた。

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 高橋源一郎が、講義で「履歴書」を紹介するにあたって、81人の中からなぜ彼女を選んだのか、その理由はわからない。
 少なくとも彼女は、この本に載っている女性の中ではかなり綺麗な方ではあるが、いわゆる「単体女優」を張れるほどの美人というわけでもない。スタイルも、上から80、58、83と、どちらかと言えば貧相。別にドラマチックなエピソードもない。つまり、81人の中で特に目立つ女性ではないのである。
 実は、例示されているのは「履歴書」の方ではなく、バクシーシ山下による「読み」の、その「貧しさ」の方である。その意味では、取り上げるのは誰でもよかったのかもしれない。なにしろバクシーシ山下は、81人のどの女性に対しても、上記引用同様の情け容赦ないひどい言葉を浴びせているのだから。
 以下に、「おわりに」と題された巻末の一文でバクシーシ山下が記した「言い訳」の一部を引用しておく。

 この本に登場した全ての女性に僕は言いたいですよ。「これは君たちの青春の一ページだ。この時に輝いていた自分を忘れないで欲しい」と。
 ふざけてるんじゃありません、本気ですよ。
 あと、この本の中で僕が女の子たちのことをブスだとかバカだとか言ってることを批判してくる人もいると思います。けど、この子たちはそれでお金もらってるんだから当たり前ですよね。そんなの、清原が打てる、打てないと同じじゃないですか。デキる社員、デキない社員と同じですよ。評価の判断基準がそのあたりにしかないんですから。
 もっとも、彼女たちはそうやって評価されることを求めて、こういう仕事をやってるわけです。モデルとして登録されたってことは、そういうことですよね。自分を売りたいわけです。自分に値札を付けたがってるんですよ。

 自己申告が正しければ(バクシーシ山下によると、同書に掲載されている履歴書の中には、かなりサバを読んだ年齢が記されたものもある)、櫻井安奈と名乗っていた女性も、2010年の誕生日をむかえて36歳になっているはず。
 彼女は今、どこで、どうしているのだろうか。
 
 ちなみに、彼女が憧れていた「庄司みゆき」はこんな感じ。

庄司みゆき 「乳首とがってるね」 より

 
 庄司みゆきは、Wikipediaにもエントリがあり写真集出てるということは、バクシーシ山下の言う通り「わりと有名」だったということか。さらに彼が言う通りなら、彼女が「ドラムの人と結婚した」というAURAというバンドは、今もがんばっているようだ。

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最終更新時間:2010年02月14日 21時41分36秒