本田靖春と落合博満

最終更新時間:2011年08月25日 21時05分32秒

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 KAWADE夢ムック文藝別冊の「本田靖春 『戦後』を追い続けたジャーナリスト」は、本田自身の単行本未収録作や、本田に由縁のある人々のエッセイや対談をまとめたもの。
 以下、講談社の編集者である渡瀬昌彦のエッセイ「名文家は話の達人でもあった」から。本田番として週刊誌の連載対談の場に居合わせた彼だから知る秘話。

 例えば、現中日ドラゴンズ監督の落合博満氏。一九八五年二月、鹿児島・鴨池でキャンプ中の落合選手をロッテオリオンズの宿舎に訪ねた。彼はこの時点で三一歳。二度も三冠王になり、歯に衣着せぬ物言いで「騒動男」とも言われていた。午後七時からの対談は大いに盛り上がり、深夜にまで及ぶ。本田さんは、落合選手の個性を高く評価し、彼も「長嶋・王はいい子ブリっ子」と本音を吐露する。ところが……対談はゴール直前で、意外な展開を見せるのだ。
《落合 やっぱりひとを中傷したりすることもあるし(中略)傷つけなくてもいい部分まで傷つけてきたんじゃないかなっていうのはあるよ。これからはいろんな配慮をしながら生きていかなきゃいけないかなっていう反省もあるしね。
 本田 あなたにはまだ早いと思う、ボクは。
 落合 早いと思う?
 本田 そんなんじゃダメだ。
 落合 ハッハッハ。
 本田 (中略)おとなしい落合博満なんて見たくもない。自立的に、個性的に、強く生きることが、それができないでいる人びとに対するあなたのご奉公だよね。
 落合 やっぱり野球やってる間はこの調子でいいかな。》
 私はこのシーンを、いまも鮮明に記憶している。本田さんは怒っていた。週刊誌の対談原稿も本田さんは、すべて自分で書く。したがって、右記のやりとりは相当、落合選手に気を遣っての表現になっているが、実際のところは「いまさら常識人になってどうする! 悪役をやり続けるのがしんどいのはよくわかる。しかし、正論を吐き続ける落合だからこそ、人はあなたを支持するのだ。甘えてはいけない。あなたは凡人にはない、得難い資質を持っているのだから」と舌鋒鋭く迫ったのだ。それに対する反応は「落合 ハッハッハ」などという穏やかなものではなかった。彼は、一分以上絶句し、揚げ句、目にはうっすらと涙が滲んでいた。まさかインタビュアーがここまで感情を露わにして本気で意見するとは……と、呆然としたことだろう。本田さんに対する物言いと態度が、そこから一変した。

 本田と落合の対談は、「戦後の巨星 二十四の物語」で読むことができる。

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