日記/2009-1

<< 2009-1 >>
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

2009-1-28

稲妻6とイナズマンと青面金剛

 

稲妻6
徳間書店
坂本康宏
楽天 Amazon

 坂本康宏の「稲妻6」を読了。「稲妻6(イナズマシックス)」という正義のヒーローが活躍する作品で、なかなか面白かったです。
 著者のブログにもあるように、仮面ライダーをモチーフとした作品なのですが、これを読んで私が思い出したのはイナズマンの方。タイトルに「稲妻」という言葉が含まれていることからも自然な連想でしょう。

Google画像検索で「イナズマン 特撮TV」を検索

 
 作中、稲妻6の外観は「鬼」と形容されているのですが、稲妻6を目撃した老婆は「あれは青面金剛さんじゃ」と語ります。老婆に教えられて主人公が見た、祠に祀られた青面金剛の銅像は、次のように描写されています。

怒りの形相に天をつくように髪を燃え上がらせた鬼のようなその姿は、
なるほど老婆が稲妻6と見間違えたのは無理もない。
背中に生えた六本の腕。それぞれの手には、三叉戟・法輪・剣・弓矢などをもち、
脇に童子を従えて邪鬼を踏みつけにしている。
足下には三猿と二鶏が刻まれていた。

 これを読んでもどうもよくわからなかったので、さっそく検索してみると、以下のような画像が見つかりました。

Google画像検索で「青面金剛 img026」を検索

 
 この青面金剛、なんだかイナズマンに似てませんか?
 青い身体に黄色いマフラーや稲妻の模様に対して、青い(緑ですが)身体に金色の装飾や衣のひだという、それだけと言えばそれだけなんですが……。
 
 Wikipediaの記載によると、イナズマンのデザインは蝶をモチーフにしたものであるとのこと。確かにイナズマンには蝶の触覚らしきものも生えてますし、目も昆虫の複眼っぽい。サナギマンからイナズマンへの変身も、蝶の変態を思わせます。
 が、色が蝶っぽくない青というところ(まあ、青い蝶もいますが)はもちろん、変身の呪文が「強力招来」とか「超力招来」という密教っぽい感じのものであることも、この「イナズマン=青面金剛説」という思いつきを補強するように思えます。
 人に触れ回ると笑われそうなこの「イナズマン=青面金剛説」ですが、自分勝手に思い込むだけなら問題ないでしょう。とか言いながら、ウェブで世界に発信しちゃってますが。


2009-1-19

声をなくして

 

 先日久しぶりに本棚の奥から取り出した「AV女優」を、ここ数日、ゆっくりと読み返していた。
 単行本の最後、解説として、大月隆寛が「ライター永沢光雄」について書いている文章は、以下の一文から始まる。

 声のいい男である。

 なぜこんなに素晴らしいインタビューができるのか、インタビュアーの適性のひとつとしての声の良さを、大月隆寛はまず挙げたのだろう。しかし、この文章が書かれた6年後には、下咽頭ガンの手術のために永沢光雄が声を失ったことを知っているこちらとしては、何とも言えない気分になってしまう。
 
 大月隆寛の解説はその後、永沢光雄と呑みながら話した四方山話を次々と紹介していくのだが、そこに黒木香の名前が出てくる。ワキ毛のAV女優として一世を風靡した彼女が失踪して数年後、写真誌に近況がスクープされたあと、彼女は女性週刊誌のインタビューを受ける。インタビュアーは女性ライター。大月隆寛いわく「テキスト自体は確かに力の入った長いものだった」が、その記事が出た直後、彼女は泊まっていたホテルの窓から飛び降り、瀕死の重傷を負う。

「あれ読んで、なんか、いじめ以外の何ものでもないなあ、
なんでこの状態の彼女にこれだけしゃべらせなきゃならないのかな、
なんで女の人ってやさしくないんだろ、って思った。
 三時間でも四時間でもお話ししたんだから、その人がこれから
元気になるようなものを書かなきゃしょうがないだろ、と。
とにかくあそこまでしゃべっちゃう人なんだから、そういう状態なんだから、
こっち側で書いちゃいけないところを考えて守ってあげないといけないのに。
あれを書いた人と会ったことはないけど、きっと話を聞きながら頭の片隅で、
『あ、これもらいッ』とか点滅してそうな、なんかそんな感じがした」

 そう語る永沢光雄だが、それから数年後、今度は自分がインタビューしたAV女優の自殺という事態に直面する。

声をなくして
晶文社
永沢光雄
楽天 Amazon

 永沢光雄がそのAV女優遠野みずほにインタビューしたのは1998年、彼女が自殺したのは2003年、黒木香の場合と違い、インタビューが自殺の引き金になったとは考えにくい。
 それでも彼は、腰を抜かすほどのショックを受ける。

なんでだよ? なんで、そのあと一秒、死ぬのを待てなかったんだよ。
一秒、たった一秒がまんすれば、おまえたちは死ぬことはなかったのに。

 彼女の友人(彼女の母親くらいの年齢の、露悪的なレズビアン)から話を聞いていくうちに、永沢光雄は、遠野みずほが彼のインタビューで嘘ばかりついていたことを知る。
 インタビューでは援助交際をバカにしていたが、実際には当時吉原の高級ソープランドに勤め、しかし過食症からくる鬱状態できちんと勤務できなかったため、仕方なくテレクラで売春していたこと。それどころか、売春相手に勧められて覚醒剤にまで手を出していたこと。
 「腎不全なんですって。だから、自分はもうすぐ死ぬんだから、今日が楽しければいいと思ってる」、そんなことも語っていたが、実は腎臓が悪いなんてことは全くなかったこと。
 
 「遠野みずほ」で検索すると、なんだか能天気な感じの、AV女優に対するそれとしては典型的なものだと思える、お気楽な調子のインタビュー記事が引っかかってくる。しかし、彼女がすでに自殺しているということを知っているこちらとしては、何とも言えない気分になってしまう。
 
 永沢光雄の遠野みずほに対するインタビューは、「AV女優」の続編である「AV女優2 おんなのこ」で読むことができる。


2009-1-7

氷高小夜の村上春樹に関する発言

 

 「文化系トークラジオLife」を読了。鈴木謙介、仲俣暁生、佐々木敦、柳瀬博一、斎藤哲也、津田大介、森山裕之ら(+ときどきゲスト)がテーマに沿ってトークを展開するラジオ番組の内容を本にまとめたもの。面白い。是非ラジオも聞いてみようと思った。
 以下、どうでもいい話。
 「憧れの男性」というテーマの回でのこと。リスナーからのメールで、矢沢永吉、木村拓哉、「はいからさんが通る」の伊集院少尉、インディ・ジョーンズ、中日の落合監督などなど、実在、非実在、とりまぜて次々と憧れの男性が紹介されていくなか、「村上春樹初期三部作の『ぼく』」について、以下のようなやりとりが交わされる。

MAIL:あこがれの男性は村上春樹初期三部作の「ぼく」です。
   男から見た春樹と女から見た春樹は違うと思いますがどうなんでしょう。
鈴木:女子から見るとどうですか、村上春樹の「ぼく」。
大西:私は苦手かなあ。
高野:いつ出会うかにもよりますよね。学生時代なのか、社会人になってからなのか。
   もっと強いものが必要な時期なのか、その深みを知りたい時なのか…。
鈴木:印象に残ってるのは、『AV女優』って本の中で、氷高小夜が言ってたことで、
   村上龍の描くセックスは確かに「セックス」だけど、村上春樹の描くそれは「性交」だと。
柳瀬:そうそう。彼女がストレートに、龍が好きで春樹はイヤだって話を書いてたんですよ。
   僕も小説としては春樹さんのほうが好きですけど、そのくだりを読んだ時に、
   なるほどすごく分かるなあと思いましたね。
鈴木:僕、氷高小夜の大ファンだったんです。たいへんお世話になりました。
柳瀬:『AV女優』のインタビューは秀逸でしたね。
鈴木:彼女のインテリジェンスをきちんと引き出してますよね。

 あれ、こんなこと、書いてあったっけ?、と本棚から「AV女優」を取り出して、久々に読み返してみた。

 該当箇所を以下に引用する。氷高小夜が、偏頭痛がひどくなって勤めていたコンピュータ会社を辞めた後どうしたか、という話。

― これからの自分の人生とか考えなかったの?
「うん。ただ、頭痛いなあって(笑)。頭が痛いのが治ってからは、
 しばらく部屋に閉じ籠もって本を読んでました。
 小学校の時から貯めてたお金が百五十万円ぐらいあったんで、なんとか余裕はあったんです。
 村上龍とか山田詠美とかいろいろ読んだな」
― 村上春樹は?
「大っ嫌い! あの人の性表現ってなんか薄汚い気がするの。
 だって妙にセックスをきれいに書こうとするでしょ。
 それって、あの人自身がセックスのことを汚いと思ってるからきれいに書こうとしてると思うのね。
 それがわかるから嫌い。セックスって汚いもんじゃないよね」

 これは、柳瀬博一の言う「ストレートに、龍が好きで春樹はイヤだって話」ではあるが、鈴木謙介の言う「村上龍の描くセックスは確かに『セックス』だけど、村上春樹の描くそれは『性交』だ」という発言は、ここにはない。
 上記引用は単行本からのものであるため、文庫本では鈴木謙介が言うような発言が記載されている可能性もなくはないが、多分ないだろう。
 とすると、これは鈴木謙介の記憶違いか?
 この「龍は『セックス』、春樹は『性交』」との説は、いわゆる、言い得て妙、というヤツで、きわめて印象深いものである。鈴木謙介が誰か他の人の発言を取り違えているのか、それとも彼の無意識の創作なのか、非常に気になる。
 
 ちなみに、「AV女優」を紹介する際に皆が引用する感動的な文章が、この氷高小夜へのインタビューの回に登場する。先例にならい、私も引用しておく。

完全に酔っぱらった目で鴨ステーキを美味しそうに頬ばる氷高小夜を見つめながら、
私は実は自分は私立探偵になりたかったのだということを思い出した。
この同性愛者が蠢く町で探偵事務所を開き、そこにかつての松田優作のテレビドラマ
「探偵物語」のように氷高小夜が謎の美少女として出入りしてくれれば、
それだけで私の人生は完結するのになあ。

 永沢光雄が死んで、もう何年になるのか。
 氷高小夜は今、何をしているのだろうか。